工事写真をAIで改ざんしたら検知された|電子透かし(SynthID)で実証した結果と今後のリスク

現場の知恵・工夫

生成AIを使えば、工事写真の数値や状況を肉眼では判別できないレベルで書き換えることが数分でできます。
しかし、GoogleのAI生成物には電子透かし(SynthID)が自動で埋め込まれており、改ざん写真はAIによる判定で検知されます。

現時点では公共工事を含む多くの現場でオリジナルファイルの提出は求められていませんが、判別技術の整備と法規制の流れから、将来的に義務化される可能性が十分にあります。
提出済みのデータは残り続けるため、過去の案件も調査対象になりえます。

この記事では実際に工事写真を改ざんし、検知されるかどうかを実験した結果と、建設現場における改ざんリスクについて解説します。

AIで生成・改編した画像は判別できる

現場写真は工事の完了検査や進捗確認、協議や打ち合わせにおいて、何よりも証拠となる「品質の証明」として扱われています。
しかし、生成AIの急速な普及により、その信頼性が危ぶまれています。

現在のAI技術は、ゼロから画像を生成するだけでなく、既存の写真の一部を肉眼ではわからないほど自然に書き換えることも簡単に行えるようになっています。

  • 鉄筋、砕石、間柱、下張り、のような施工後に確認不能な隠ぺい箇所を、行ったことにする寸法をごまかす。
  • 接着剤のオープンタイム、塗装工程の塗り重ね時間、のような時間・時刻を書き換える。
  • 膜厚測定、塗料の計量、真空引きの時間と圧力、のような測定値を書き換える。
  • 持ってくるのを忘れたフルハーネスなどの安全具を、付けている事にする。

例えば、上記のように写真でしか証明できない工程で写真の改ざんを行った場合、品質の信頼性はどうなるでしょうか?

2026年、EUではディープフェイク(悪質な捏造)、誤情報、なりすまし、消費者欺瞞などの対策のために「AI法」が施行されました。
これは、AI生成物には「AI製である」と判別可能にすることを義務付けるものです。

図解:生成AIによるコンテンツの不正な改変とその影響

実際に、Googleの画像生成AI「Nano Banana」シリーズなどには、人間の目には見えないが、AIには判別できる「電子透かし(SynthID)」が生成時に自動で埋め込まれるようになっています。

この「電子透かし」が実際に埋め込まれるのかどうか、改ざん写真は判定できるのか?を次の項目の実証実験で確認します。

電子透かしの実証と実際の検知状況

実際に、「工事写真を生成AIで改編・改ざんしたら判別可能なのか?」を確認するため、以下の実験を行います。

電子透かし確認の実験手順
  1. オリジナル写真を用意する。
  2. 生成AIを使って改変してもらう。(モデル:Google Nano Banana 2)
  3. 改変後の写真に電子透かしが付与されたかどうか、AIに判定してもらう。(モデル:Google Gemini)
  4. 改変後の写真を、さらにPhotoshopを使い手動で加工し、AIに判定してもらう。
    • 電子透かしは手動の画像加工で消えるのかどうかを実験。
    • 画像をどこまで壊せば電子透かしが判別できなくなるのか実験。

オリジナル写真の用意

電子透かし実験に使うオリジナル写真:16kg入り塗料の新品一斗缶が上皿測りに乗っており、針が17kgを示している
オリジナル写真 開封前の一斗缶塗料
内容量:16kg 実重量:17kg

実験に使う写真は、上の塗料計量写真です。
一斗缶の使用前状況なので、内容量:16kg 実重量:17kgを示しています。

生成AIによる改変を行う

オリジナル写真をGoogle Geminiに入力し、「上皿測りの針を12kgに変えてください。」というプロンプトを実行する画面

オリジナル写真をGoogle Geminiに入力し「上皿測りの針を12kgに変えてください。」というプロンプトを実行します。

Google Geminiにより上皿測りの針を12kgに改変した写真が出力された画面
16kg入り塗料の新品一斗缶が上皿測りに乗っており、針が12kgを示している

測りの数値がだいたい12kgになった写真が生成されました。
写真はきれいに変わっており、見ても違和感はなく「缶が新品なのに軽い」という矛盾でしか改変を判別できません。

オリジナル写真と生成AIによる改変後の比較:測りが17kgを示す写真と測りが12kgを示す写真

電子透かしの判定

改変した写真を使い、電子透かし(SynthID)の有無をチェックします。
これで、電子透かしが検知されれば、「改変後の写真はAI製である」という証明ができるということになります。

Geminiに改変後の画像を入力し、SynthIDの有無を判定させるプロンプトを実行している画面

チャットログを参照することによるバイアスを避けるため、Google Geminiの新しいチャットを開始します。
先に生成した12kgの画像を貼り付け、「この画像がAIで生成されたものかどうか、SynthIDの有無を教えてください。」というプロンプトを入力します。

改変写真の判別実験:17kgから12kgに改変した写真をGeminiがSynthIDで検知

念のため、オリジナル写真の確認

Google Geminiが生成した画像は電子透かし(SynthID)が付与される。ということがわかりました。
しかしここで、「Google Geminiがユーザーの意図を汲んで都合よく『改変です』と言ったのではないか?」という疑問が残ります。
そのため、念のためオリジナルの写真もチェックに掛けてみます。

改変写真の判別実験:オリジナル写真は電子透かしが検出されない

結果は、「検出なし」とのことです。
生成AIを通していない写真については、Geminiは正しく「無し」と言うようです。

改変後の写真を手動で加工し、電子透かしの検出を確認する

生成画像に付与された電子透かしは、消すことができないのでしょうか?
確認のために、以下の加工を行ってから再度SynthIDの判別を行います。

結果は以下のようにりました。

電子透かし付与の写真に行う手動加工とその結果リスト
  • グレースケール化
    • 白黒に変換したらどうなるか?
    • 結果:AI製であると検知
  • 反転
    • 反転させても電子透かしは検知できるか?
    • 結果:AI製であると検知
  • 形式変換:JPG → PNG
    • jpg形式ではない画像ならどうなるか?
    • 結果:AI製であると検知
  • モザイク
    • 解像度を荒くしても、検知できるか?
    • 結果:AI製であると検知
  • モザイク(強)
    • 強いモザイクを掛けたらどうなるか?
    • 結果:検知不可
    • ただし写真として成立しない。

グレースケール化した画像

加工した改変写真:グレースケール
白黒に加工した写真
改変写真の判別実験:改変した写真をグレースケール処理。GeminiがSynthIDで検知
電子透かしに彩度は関係ないようだ

反転した画像

加工した改変写真:上下反転
反転した写真
改変写真の判別実験:改変した写真を上限反転。GeminiがSynthIDで検知
ひっくり返っても判別できるようだ

jpg形式からpng形式に変換した画像

jpg形式からpng形式に変換した改変写真
jpg形式で検出されるなら
png形式に変えたらどうなるのか?
改変写真の判別実験:改変した写真のファイル形式をjpg→pngに変換。GeminiがSynthIDで検知
ファイル形式は関係なく、見え方が同じなら検出できる

モザイク化した画像

加工した改変写真:モザイク
解像度をかなり下げた
改変写真の判別実験:改変した写真にモザイク処理。GeminiがSynthIDで検知
ぼやけていても判別可能

モザイク(強)を掛けた画像

加工した改変写真:強いモザイク
輪郭しかわからないくらい解像度を下げる
改変写真の判別実験:改変した写真に強いモザイク処理。画像が壊れてSynthIDは検知不能だった
検出できず
どちらかというと「判別できる状態ではない」というニュアンス

なぜ判別できるのか?SynthIDとは

電子透かし(SynthID)とは、GoogleのAIによる生成物に埋め込まれるサインのことです。
Google製AIが作ったものは画像、音声、テキスト、動画とあらゆるものに付与されます。

写真のプロパティ(Exif)の画面
画像ファイルにはもともと、撮影した地域(GPS位置情報)
撮影機種、日時などを書きこむことができるが
プロパティ情報は書き換えできるため、透かしにならない

電子透かしは画像ファイルに元来あるプロパティやExifのように外部に付与されるものではなく、生成物そのものに書き込まれます。
これは「写真の表面に透明なインクで書き込まれる」と想像すればばわかりやすく(厳密には違いますが)
透かしを削除・判別不能にするには「写真の見た目」という品質を壊さないといけないため、結果、信頼性を確保できます。

AIが電子透かしを判別しているイメージ図

電子透かし(SynthID)は、現時点ではGoogleの生成AIのみに適用される仕組みですが、「AIが作ったのか、現実にある本物なのか見分けが付かなくなっている」というディープフェイクや捏造は対応が急がれる社会問題です。
そのため、いずれ合法的な生成AI素材には全て同様の対策が行われるであろうと予測されます。

電子透かし技術はまだ発展途上であり、検出精度や削除耐性の向上が進められています。
これらの技術の詳細については、下記のリンクを参照してください。

参考: Google AI for Developers Synth ID ドキュメント

参考: Nature 大規模な言語モデル出力を識別するためのスケーラブルな透かし

結論:改ざんは「まだバレていない」だけである

生成AIの普及により、工事写真の改ざんは特別な技術がなくても数分でできるようになりました。
心理的なハードルは確実に下がっています。

しかし今回の実験で確認したように、現時点でもオリジナルファイルの提出を求められれば即座に発覚します。
「まだ大丈夫」という認識は正確ではありません。

現時点では、写真1枚ずつチャット型AIに「透かしはありますか?」と入力する必要がありますが、「ファイル一括」「フォルダ一括」などで真偽を判定するソフトは、近いうちに作られると思います。
AIによる生成物の判別需要は、建築業界に留まらず世界全体で必要だからです。

複数の工事写真を一括でAI判別するソフトのイメージ図

現時点では、AI改ざんへの対策が制度として整備されておらず、発注者側の検知手段も限られています。
しかし、先の実験が示すように、技術的な検知手段はすでに存在しています。

制度の整備は後追いになりがちですが、建設業界でのAI利用が広まるにつれ、改ざんに関わる何らかの事案が表面化することが引き金になると考えられます。
その時点で規制と監査が一気に強化される可能性があります。

「今は判別されない」は「ずっとバレない」ではありません。
改ざんは過失ではなく故意であるため、発覚した時点で当該案件だけでなく過去の工事全体が調査対象になり得ます。
企業としての信頼回復は極めて困難です。

魔が差す状況は現実にある

「うちはやり方がわからないから大丈夫」
「クリーンな工事を心掛けているから大丈夫」
現在の建設業界では、このような正しい考えの方が大半であると思います。
しかし、人間は追いつめられると正常な判断ができなくなる特性があります。

  • 数億円規模のビル工事で基礎配筋間隔の誤りに気づいた。
  • アスベスト濃度測定の時間が不足していた。
  • 埋設管の勾配が足りていないことに気づいた。

施工が完了してからこのような事に気づいたとき、写真を書き換えるという選択肢が頭をよぎることを完全に否定できるでしょうか?

改ざんは失敗や事故ではなく故意です。
発覚した瞬間に言い訳の余地はなく、公文書偽造や詐欺に該当し得る行為です。

提出済みのデータは残り続けます。
その時点で調査されなくても、数年後の監査や別件の調査で過去工事が対象になる可能性があります。
もし一件でも発覚すれば、過去全ての資料が調査対象となり、会社の全事業の信頼性を遡及して失わせます。

将来、起きうることとは?

先に述べた通り、改ざんに対する心理的ハードルが下がりました。
今後、大手企業の高額な案件や大規模な公共事業のような「失敗できない事業」のミスを隠すための改ざんが行われ、発覚するかもしれません。
これにより社会問題になり、オリジナルファイルの提出義務化など規制が急速に進む可能性があります。

あなたが今できること

撮影したオリジナルファイルは必ず保存・保管してください。
改ざんしていなければ、提出を求められても証明できます。
オリジナルファイルの保存は不正への備えではなく、自分を守る証拠です。

まとめ:この記事の概要

  • 工事写真は生成AIにより、肉眼では判別できないレベルで数分以内に改ざんできる。
  • GoogleのAI生成物には電子透かし(SynthID)が自動で埋め込まれる。
    • グレースケール・反転・ファイル形式変換・軽いモザイク程度では消えない。
  • 消すには写真として成立しないレベルまで品質を破壊する必要がある。
  • 現時点でもオリジナルファイルの提出を求められれば即座に発覚する。
  • 改ざんは故意であるため、発覚した場合に公文書偽造・詐欺に該当し得る。
  • 過去の提出データは残り続けるため、後年の監査で発覚するリスクがある。
  • オリジナルファイルの保存・保管が自分を守る唯一の証拠になる。
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