アスベスト調査の目視調査段階の一つ、試料採取(検体採取)作業の流れと方法を解説します。
試料採取(検体採取)
石綿含有建材調査で、目視のみで含有・無含有の判別できない建材は一部を切り取り、それを分析業者へ送付・分析依頼をして、成分分析を行います。
この業務を行うには『建築物石綿含有建材調査者』の資格者証が必要です。
- 目視での含有・無含有の判断- 判断不可の場合、試料採取へ移行
 
- 採取箇所の選定- 均一な採取箇所
- 景観への配慮
 
- 防じんマスクの着用- 取替え式防じんマスク(粒子捕集効率95.0%以上、RS2 又はRL2)
- 半面形面体を有する取替え式防じんマスク(粒子捕集効率99.9%以上、RS3 又はRL3)
 
- 採取作業
- 袋詰め、採番
- 分析機関へ送付・分析依頼
目視での含有・無含有の判断
目視調査の最初の段階にて、建材を目で見て判別を行いますが、ほとんどの建材は見ただけでは特定することができません。
- 建材に印字されている刻印から含有・無含有が特定ができる。
- 建築時の資料で使用材料名が記録されており、製造メーカーへ問い合わせができる。
- 印字や新JISマークが確認でき、2006年9月以降に製造されたことが明らかである。
これらのように、100%断定できる根拠がない場合は「みなし含有」にするか、採取調査を行うかの二択となります。
採取箇所の選定
1部位3箇所から取る事が多い
試料採取は、対象の建材の一部分から3箇所を選定して切り抜きます。
『3箇所』の内訳は、成分や分析結果の偏りを無くすため、なるべく散らした場所にします。

最近では、分析方法や器具などにより1箇所のみで良いという分析会社もあります。
せっかく採取したのにやり直しになっては意味が無いので、実際に1部位につき何検体必要になるかは、依頼する予定の分析会社に問い合わせるのが一番だと思います。
景観への影響
建材の一部を切り取るという事は、当然その部分は無くなります。
取り壊す予定の建物なら一部が無くなっても特に影響はありませんが、使い続けている建物の調査の場合は、どこから採取するかの選定も重要です。
内装材の場合は、下地が見えたままの状態になりますし、外壁や防水層を採取してそのままにしておくと雨漏りの原因になるかもしれません。
運営中の建物から建材を採取する場合は、現状の維持ができる補修の方法も検討しておきましょう。
採取の大きさ
採取する大きさは、一般的には下記の程度とされていますが、分析会社の分析方法などにより異なるため、心配なときは問い合わせてください。
多すぎると、分析会社が処理に困ってしまい、少なすぎると、分析の過程で熱を加えるため燃え尽きてしまうとの事です。
- 成型物ではないもの(綿状など):ゴルフボール程度(砕けていても体積分は確保する)
- 成型物(ボード状、シート状):5cm~10cm角(円の場合は直径)程度
防じんマスク着用


試料採取にあたり、防じんマスクの着用を行います。
防じんマスクは何でもいいという訳ではなく、以下の要件を満たしていなければいけません。
- 取替え式防じんマスク(粒子捕集効率95.0%以上、RS2 又はRL2)
- 半面形面体を有する取替え式防じんマスク(粒子捕集効率99.9%以上、RS3 又はRL3)
保護衣(防護服)は必要なのか?

石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル R7.3 259ページ
(画像は拡大できます)

石綿試料の採取は、アスベスト作業に当たりますが、環境省が配布しているマニュアルによると試料採取は「石綿等の除去等の作業以外の作業」に該当するため、保護衣ではなく作業着でも問題ありません。
ただし、最低限防じんマスクは必要な事に注意してください。
もちろん、着用の義務は無いというだけで、保護衣を着ることは品質管理(飛散防止=衣類に付着しない)安全管理(被ばく防止)においてより有効な手段です。
採取作業
1,採取場所確認



試料採取を行う箇所の選定を行います。
数か所から採取する場合その選定方法と、先述の景観への配慮も行います。
内壁などの場合、下地位置も推測し、下地の損傷による耐力低下の懸念も検討事項です。
2,飛散防止剤噴霧(採取前)



試料採取は「アスベストかもしれない建材を切断・穿孔する作業」ですので、飛散防止剤噴霧や散水など事前の飛散防止処理が必要です。
噴霧により周囲までふやけて状態が変化してしまうものや、濡らしてはいけない物が付近にある場合は養生や事前説明などの注意が必要です。
3,採取作業



実際に建材の切り出しをします。
内壁など中空になっている建材は、切り出した試料が向こう側に落ちないよう気を付けてください。
飛散防止のために以下のような方法で周囲を区画して行います。
- ダウンライトカッターのような密閉空間にする道具を使う。
- 丈夫なビニール袋の中で作業をする。- テープで採取箇所に固定し、穴を空けて手を差し入れてビニール内部で作業をする。
 
道具はけれん、カッター、げんのう(金づち)、スクレーパ、ダウンライトカッターなどです。
柔らかいもの・薄いものは切り取り、硬いもの・厚いものは削り取るなど、採取方法はあらかじめ検討して道具を選定します。
粉や破片を残さない!
採取する建材は、現時点で「アスベストかもしれない物」です。
作業による粉や破片で周囲が汚れた場合、もし分析結果が『含有』であれば粉じんの飛散となってしまいます。
もし後から汚れが見つかったら施設からの印象も良くないため、養生と清掃を行いましょう。


4,飛散防止剤噴霧(採取後)



建材の撤去後に、撤去箇所へ飛散防止剤(もしくは散水)を行います。
撤去箇所は建材の断面が露出するため、飛散防止処理を行わないとそこから飛散する、という理屈からです。
作業前の噴霧のように、濡らしてはいけない物には注意してください。
5,採取箇所確認



採取後状態は写真撮影を行います。
この写真は調査報告書に載るため、直接現場を見ていない担当者や、将来別の調査者も見る可能性があり「どのように採取したか」「採取後の断面、建材状態はどうなっているか」の資料になるため重要です。
後に検証材料になる事もあるため「どこから採取したか?」という証拠としても写真を残しておきます。
採取箇所が濡れていれば、飛散防止処理を行った証明にもなります。
6,採取後補修

試料採取後にも景観を保たなければいけない箇所や、居住者・職員などが利用し続ける場所には採取跡の穴に補修を行います。
発注者の求める補修のグレードにもよりますが、一番簡単なのは設備・電気工事などで使われる樹脂プレートを貼ってしまう事です。
樹脂プレートは両面テープ式であることが多いので、善意で補修したのに後から剥落してクレームになることが無いように確実に留め付けてください。
特に、飛散防止剤噴霧後は周囲が濡れており付着が悪いため、ボンドの点付けなどを併用すると良いです。
袋詰め、採番


採取した試料は、1つずつ密閉容器(ジップロックなど)に入れて持ち帰ります。
採取試料は、複数になると混同し、同じ建材の場合はどの箇所の物か見分けが付かなくなるため、採取したその場で袋詰め・名称記入を行っておきます。
袋への名称記入は、後の分析調査時に分析会社での混同を防ぐためにも重要なので必ず行ってください。
- 現場名
- 日付
- 棟名(西棟、B館などがあれば)
- 階数
- 部屋名、場所名
- 部位(天井、壁、床など)
- 建材名
- 社名、採取者名(社内部署などで管理する場合)
現場に置き忘れた、荷物に紛れて紛失する、のような事例は初歩的でありながら起こりがちであるため、管理には注意を払ってください。
分析機関へ送付・分析依頼
試料ができたら、荷造りをして分析機関へ送付します。
分析機関については、業務で行っている調査者でしたら日頃頼んでいる会社があると思いますが、お探しの場合は検索エンジンで「石綿 試料 送付」などと検索すればいくつかヒットします。
『十分な経験および必要な能力を有する者』が認定されている分析会社は「石綿分析技術評価事業 Aランク」という評価があるため、それを取得している所から選択するのが良いかもしれません。
送付の方法は、依頼する会社により方法が提示されているため、問い合わせてみましょう。
平たい物ならレターパックが安全で便利です。

 
 
