石綿含有建材の調査報告書の一つとして『目視調査総括票』というものがあります。
この記事では目視調査総括票の書き方を解説します。
目視調査総括票・現地調査総括票
改修工事の着手前や建築物の定期検査の際に、石綿含有建材の使用状況を調査した結果として『目視検査総括票』という書類を作成します。
『現地調査総括票』という名称を用いる場合もありますが、内容は同じです。
目視調査総括票は『石綿含有建材調査者』の資格者が作成します。
目視調査総括票において、判明している事項は必ず記載することが望ましいですが、発注者から得られる情報や作成に携われる時間にも限度があるため、工事規模からの必要事項を見極めて、妥当な範囲に留めておくのも方法の一つです。
「書類が完成しないので調査が進まず、結果の判定が遅れて工事に入れない」では本末転倒です。
目視調査総括票は、国土交通省で体裁を配布しています。
また、当サイトでも編集しやすいよう書き起こした物を配布しています。
どちらもExcelシートで便利です。

原則として空欄は作らない
原則として、この記事で言う『調査者』とは、この報告書を作成するあなた自身、またはあなたが依頼した調査資格者を指します。
目視調査総括票の中で、調査者が持っていない情報、発注者から教えてもらわないとわからない箇所
上記の2つは、記載するための手間が多く、空欄になりがちです。
しかし、石綿調査の資料は将来長く残るものであり、後任の業者や担当者が見直したときに空欄では、経緯も意味も全くわからなくなってしまいます。
そのため、空欄はなるべく作らず「空欄である理由」を書いておく事が望ましいです。
- わからない箇所
- 重要性の低い箇所(改修工事での工事範囲外、立入範囲外)
- 調べる事が不可能な事項
これらの項目も『空欄』ではなく
- 『今回調査範囲外』
- 『今回改修工事において不要』
- 『過去記録滅失のため不明』
- 『発注担当者に資料請求中(〇年〇月〇日)』
のように、記載内容が無い旨と、その理由を記載しておくことが推奨されます。
空欄を作らないことは、調査者にとっても「記入漏れや忘れではありませんよ」と示せる利点になります。
もちろん、工事範囲に関わる項目は、必ず正確に記載するのが前提です。
目視調査総括票:各項目の解説

建築物の概要
(画像は拡大できます)目視調査総括票には「□は建築物の所有者が記入しても良い」などの記載があります。
『建築物の概要』欄の当該箇所は、基本的に建築物の所有者しかわからない情報が多く含まれるため、正しい情報が必要な場合は、所有者に記載を依頼しましょう。
「建築物の概要」の項目
- 建築物名称
建築物の調査時点での名称を記入する:〇〇ビル、〇〇中学校 - 棟名称、番号
棟に名前がついている場合は記入する:別館、B棟、2号館 - 建築物所在地
「住居表示」郵便の届く住所を記載します - 建築物用途
工場、住宅、店舗、商業ビル、公民館など - 建築物所有者
個人名、法人名、自治体名など - 所有者住所
建物所有者の住居表示:郵便の届く住所を記載します - 連絡先(TEL)
携帯電話含め、連絡のつく番号を記載します - 確認済み証交付日・番号
年月日まで記入します(可能な限り) - 検査済み証交付日・番号
年月日まで記入します(可能な限り) - 増改築の有無
過去行われた場合は、年月日まで記入します(可能な限り)
建材の製造年の判断基準になります - 建築物構造
鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)
階数、耐火構造も記入(地下1階→B1F、棟屋2階→PH2F) - 敷地面積
記入する場合、不明なら発注者へ問い合わせる - 延べ床面積
記入する場合、不明なら発注者へ問い合わせる - 調査者記入欄備考
過去資料と事実が違う場合や、欄が設けられていないが特別に記載したい内容を入れる - 作成日・最終回収日
「回収とは何だ?」と思うかもしれませんが、この欄は所有者が記載するものであるため「作成日」は書いた日「最終回収日」は統括表が所有者の手を離れて調査者が回収した日、という解釈のようです。
所有者情報提供依頼概要
(画像は拡大できます)この欄も「建築物の概要」と同様、区画された欄は所有者が記載する項目です。
調査者自身が書く場合も、所有者からの情報提供が必要です。
所有者情報提供依頼概要
- 石綿調査履歴
今回ではない、過去に石綿調査を行ったかどうかの履歴。 - 調査会社名、調査時期、分析会社名、調査報告書の有無
報告書の信頼性を裏付けるため、過去の調査履歴を記入。
調査時期は、法改正前などであった場合、現在の基準に適合しているかの判断基準にもなる。
過去の調査報告書がある場合は、今回の報告書に添付する。 - 図面の有無、図面有りの場合
参照できる図面を記載する。
設計図書、過去竣工図、矩計図、仕上表、間取図、など - 建築確認申請図書の有無
ある場合は、種類、名称を記入する。 - 改修工事歴
過去改修工事を行った履歴と箇所を記載する。
所有者や管理者が変わったなどで不明な場合は、不明とする。
今回の石綿調査に影響する箇所の場合は、別紙で図面など根拠を付けても良い。
→例:当該部屋は2020年に全面改修したため、無含有。その旨を記載など - 石綿処理歴
改修工事と同様、過去の工事履歴がある場合は記載する。
図面などの根拠がある場合は添付する。
→例:2020年に封じ込め(既存含有建材に重ね張り)のため、下地建材に含有。などの旨を記載。 - 調査者記入欄
所有者(建物管理者や工事担当者も)とのヒアリングで判明した内容を記載。
「資料はないが、過去改修したことがある」
「石綿含有天井ボードを撤去したが、天井付け換気扇の裏は残っている」
など
今回調査の概要
(画像は拡大できます)この欄は調査者自身が記入します。
今回調査の概要
- 調査日、調査会社名、調査会社住所、調査者氏名
調査者(あなたか、あなたの依頼した調査者の所属)を記載します。
石綿含有建材調査者の資格者番号も記載します。 - 分析会社名、分析会社住所
採取した試料を分析し、含有・無含有を判定した会社(分析結果報告書を発行した)を記載します。
今回調査箇所
(画像は拡大できます)目視調査統括票や、石綿含有建材調査報告書の主役であり、最も重要な箇所です。
「どこの、どの部分、何の建材、採取の有無、どのような判定か?」を明確に記載します。
今回調査箇所
- 棟、階、部屋名
どこの箇所かを明確にします。
マンションなど同じ部屋の連続した建物でも建材が違う場合があるので、部屋名は明確にします。 - 部位、材料名、建材名、試料名など
どこの材料を調査したかを明確にします。
部位:天井、壁、床など
材料名、建材名:石こうボード、断熱材、吹付塗材など
試料名:〇号室和室天井①、〇番ダクトたわみ継手など(分析会社への提出材料名に合わせるとよい) - 材料の性状
ボード状、繊維状、シート状、綿状、など状態や感触を記載 - 採取の有無
明確に記載します。
採取して分析調査したのか、見たのみでの判別なのかを明らかにします。 - レベル
1~3の石綿のレベルを記載します。
畳など石綿ではないものは - などでいいかもしれません。 - 判定、分析結果
調査の結果、石綿だったかどうかの記載をします。
種類まで判明した場合は「含有 クリソタイル」などと書くと良いです。 - 参照ページ、備考
詳しく記載する場合、対応する調査個票のページを記載します。
備考欄には特筆する事項や、箇所の詳細などを記載します。
「既に劣化しており剥離多数」など
今回調査できなかった箇所
(画像は拡大できます)何らかの事情により、調査しなかった・できなかった箇所を記載します。
大きな建物の場合で全部屋、天井、壁、床、配管、設備など全建材の調査となると、莫大な項目数になってしまいますが、そうではない改修工事などで、そもそも範囲外の場合は記載する必要がないと言えます。
心配な場合は担当者に問い合わせてみましょう。
今回調査できなかった箇所
- 棟、階、部屋名
調査箇所と同様、明確に記載します。
将来の後任者がどこを調査すればよいのかがわかります。 - 推定部位、推定材料名
「部屋内に立ち入れず調査不可」ではそもそも見ることもできないため、推定される材料を記載します。 - 調査できなかった理由
「高所で足場が無いため」
「機械室で動作中のため」
「鍵の開閉できるものが不在のため」
「配管を分解しないと調査不可」
など簡潔に記載します。 - 参照ページ、備考
今回調査箇所と同様、対応する調査個票のページを記載します。
備考欄には特筆する事項や、箇所の詳細などを記載します。
「既に劣化しており剥離多数」など
維持・管理のための調査における所見、アドバイス
(画像は拡大できます)調査のみで撤去工事を行わない場合、検出した部位の石綿含有建材に対して
「どう対処しながら、施設運営を行えばよいか」
を記載します。
改修工事における調査では、記載しないことが多いです。
維持・管理のための調査におけるアドバイス
- 維持
「早期に撤去・除去工事が推奨されます」
「定期的(具体的な時期)な点検と劣化状態の把握を行ってください」
など - 環境調査
「劣化度合いに応じて実施してください」
「利用者が多い箇所のため、濃度測定を実施してください」
など - 対策
「利用者が触れないよう、注意・区画してください」
「囲いを設けて、立ち入りを制限してください」
など - 措置
「1年以内に除去工事を推奨します」
「除去工事に向けて、段階的に部屋の使用を減らし、〇か月後の工事に対応してください」
など